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満員電車内で、正面に座っている中年のサラリーマン風男性。
熱心に雑誌を読みこんでいるその頭上は、少し髪の毛が薄い状態でした。
 
私以外の人も男性の頭上をチラ見する中、そこにいた誰もが絶対に言ってはいけないと分かっているタブーを、我が息子が口にしてしまったのです…
 
中年男性を指差し、大きな声で一言。

 

 
ねぇ、ママ。
あのおじさん、ハゲてるね!
 

 

と、とても大きな声で言ってしまったのです。
 
息子のあまりにも大きな声は、満員電車の隅々にまで響き渡りそうな程良く通り、その一部始終を聞いていた他の乗客の人は見てみぬフリをしたり、クスッと笑う声も聞こえました。
 

しかし、問題はこの男性。
焦った私は、すぐさま男性に向かい何度も頭を下げて謝罪をします。
 
男性は手に持っている雑誌から目を外さず、特に気にしていない素振りを見せています。
しかし表情は変えないものの、顔は真っ赤。
 
この男性も息子の一言があるまでは、特段気にしていなかった様子でしたが、一度指摘されてしまうと気になって仕方のないものです。
 
とても恥ずかしいと感じていたでしょう。
 
そしてそのまま、男性の降りる駅が近くなり、スッと立ち上がり扉に向かいました。
もしかしたら怒られるかも…そう思っていると、男性が息子に話し掛けてきたのです。

 

 
おじさんの髪型、面白かったかい?
 
おじさんは仕事でとても苦労していてね。
その疲れからどんどん髪の毛が減ってしまったんだよ。
 
でも君の一言で気が付いたよ。
何も、ハゲてる事は恥ずかしい事じゃないんだ。
私の歩んで来た道筋みたいなものだからね。
毎日頑張って仕事してる証拠なんだってね。

ありがとうね。

でも、君は将来そうならないように、さっきみたいに言いたい事は言っておおらかに頑張って行くんだよ。
そして、君のお父さんも出来ればハゲないようにしっかり支えてあげるんだよ。

 

 

 

私は、男性に再度深くお辞儀をして電車から降りるのを見送りました。
 
普通、こんな事を言われれば激怒する人も多いのではないでしょうか。
しかしこの男性は、怒るどころか自らの後ろめたさをさらけ出し、さらには自分に恥をかかせた子供にまで寛大な対応をしてくれました。
 
人は、日々色々なモノに囲まれて生きています。
プライドやストレスや見栄など様々。
 
でもそれらは、無駄な争いであるのかもしれません。
 
ふと、無邪気で何も考えていない子供の無垢な発言や思想が、時に人を変える影響力があるのかもしれないと、教えられた気がします。

 


Writing by Yukichi.T


画像引用元:http://airportcafe1.blog90.fc2.com/blog-entry-161.html


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