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三が日のその日は、うちに親戚が数人集まって、みんなで食事をする日でした。
外には珍しく雪が降っており、元気もなかったムクは、自宅の玄関に毛布を置いて、そこで横になっています。
私はムクの事ばかり気になっていましたが、ムクはずっと、玄関の先に見える居間にいる母の方ばかりを見ていました。
 
お昼に差し掛かった後くらいの事でした。
滅多に鳴かないムクが、「くぅーん」と鳴き出します。
すぐに気づいた私はムクの側に駆けつけましたが、ムクは相変わらず母の方を見ながら、まるで母に投げかけるように鳴き声をあげるのでした。
 
いてもたってもいられず、母のところにいき、
「ムクがお母さんを見ながら鳴いてる」と言いました。
最初は取り合ってくれなかったものの、3度ほどいうと母が「トイレでもいきたいのかね」と言いながら、ムクの元に行き、玄関の扉を開けるのでした。
 
ムクは少し元気そうにスクっと立ち上がり、母に擦り寄る仕草を一度見せながら、足早に外へ入っていきます。
母は「ほらね」という様に扉を閉めると、居間の方へ戻っていきました。
 
玄関で、ちょこちょことドアを開けながら、ムクが戻って来るのを待つ私。
パラパラと雪が降る外に、ムクの姿は中々映りません。
 
10分、15分と時間が経つけど、ムクが戻ってこない事に、強い不安に駆られた私は、一度外に出ます。
 
すると、庭の奥の方に、息絶えているムクがいたのでした。
一人で、雪の中、倒れているムクの姿が。
 

ムクに駆け寄り、死んでいる事を認識した途端、大泣きする私。
大泣きしながら家に戻り、親戚の前で母に
 
「ムクが死んじゃった」と何度も何度も繰り返し言いました。
 
母も驚きの表情をし、急いで走って外に向かいます。
親戚の人も私を抱き上げ、母に続いて外に出ました。
 
雪の中、息絶えるムク。
母がムクの側にいくと、ムクの頭を撫でながら「なんでこんな寒いところで」と小声でぼやきます。
 
すると私を抱き上げながら母に続いた親戚が、
 
「この子、俺たちが正月で楽しそうにしてるから、気を使って外に出てきたんじゃないんか?」
 
と言うのでした。
確かに、もうすぐ死んでしまうほど苦しい犬が、元気そうに外に出ようとは思わないはず。
もしかしたら、目の前で死んで、母を困らすようなことをしたくなかったのかもしれない。
何より、最後に、母に擦り寄りたかったのかも。
 
そんな時、母はムクの前で、初めて泣くのでした。
そして、息絶えているムクを抱きしめるのです。
 
「そうだったんだね」
「ありがとう」
「ごめんね、ムク」

 
後にも先にも、涙を流した母はその時しか見たことがありません。
ムクのことが嫌いだった母。
でも、最後の最後でムクが母に見せた「思いやり」は、遅かったかもしれないけど、しっかりと母の心に届きました。
 
今は母も亡くなってしまいましたが、我が家には二代目ムクがいます。
この子も優しい優しい、思いやりに溢れた犬。
病弱とは無縁の二代目ムクは、今日も元気に外を走り回っています。
 


Writing by Misako Yamaguchi


画像引用元:zukan.kids.yahoo.co.jp


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