帝王切開で赤ん坊を取り出すことが決まったとき、彼女は恐怖で震えました。
なぜなら彼女の順番が回ってくるすぐ前の妊婦が、病院の手術台の上で出血多量で死亡していたからです。
恐怖に駆られてパニック状態となっていたザハラは、病院から逃げ出してしまいました。
モロッコには「眠る赤ちゃん」という伝説があります。魔法にかけられた子供が、通常よりも出産の時期が遅くなるというものです。
この伝説は当時作られたもので、妻の出産の時期が近づくと不安になる男性を落ち着かせようという目的があったといいます。
この伝説にはまた、夫が浮気に走るというケースの減少にもつながったそうで、ザハラもまたこの伝説を信じ、ただ待っていれば自然と赤ちゃんは生まれてくると信じることにしました。
彼女は泣き言も言わず、その後病院へも二度と行くことなく、日常の生活をつづけました。
やがて彼女は、生まれない子供のこともすっかり忘れてしまい、それから46年後、彼女が75歳となったある日、彼女は突然激しい腹痛に見舞われます。
医師は彼女の体に腫瘍ができていると考えました。